台湾×東村山・小平・東大和|文化・食・歴史を巡る旅
(更新)
東市場を歩くと見えてくる、食・信仰・暮らしの重なり

市場、バイクで混み合う通り
台湾・嘉義市にある嘉義市東公有零售市場(通称・東市場)は、地元の人たちの暮らしを今も支え続ける伝統市場です。その起源は清代にまでさかのぼり、山から農産物を運んできた人々や、近くの城隍廟を訪れる参拝客が集まることで、次第に市が形づくられていきました。日本統治時代には再整備が行われ、1914年に正式に営業を開始したとされています。
東市場の魅力は、単なる古い市場ではないところにあります。嘉義の人々にとっての「大廚房(大きな台所)」であり、「大食堂」でもある場所とも言われているそうです。野菜、魚、肉といった日々の食材だけでなく、結婚や祭祀に関わる品までそろい、食と生活と信仰が自然に重なり合う空間になっています。
市場の中でまず目を引くのが、天井を支える高い木造架構です。嘉義市政府によると、東市場の建築には大量の檜木(ヒノキ)が用 いられているそうです。現在の東市場は、火災、地震、戦乱を経て、1987年には一部がコンクリートで増築されました。
その歴史的価値は文化資産としても評価されています。国家文化資産網によると、東市場は異なる時期に建てられた複数棟で構成され、A棟・B棟などの木造部分が歴史建築として登録されています。市場全体がひとつの文化財というより、歴史ある木造建築が「今も現役の市場として息づいている」ことにその価値があると言えそうです。
東市場を歩く楽しみの一つが、やはり食です。嘉義市政府は東市場の代表的な味として、米糕、牛雜湯、楊桃汁、排骨酥、春捲などを挙げています。観光向けに整えられた施設というより、地元の人が朝食や買い物の合間に立ち寄るいつもの味が、今も市場の中心にあります。
なかでも東市場を語るうえで外せないのが、牛雜湯や筒仔米糕です。このような名物の顔ぶれを見るだけでも、この市場が単なる買い物の場ではなく、嘉義の食文化そのものを支えてきたことが伝わってきます。市場の中を歩くと、湯気の立つ屋台、朝から食事を楽しむ人の姿、持ち帰りを待つ人たちのやり取りがあり、そこには観光地とは少し違う、生活に根ざしたリズムがあります。

嘉義城隍廟
東市場のもう一つの大きな魅力は、嘉義城隍廟がすぐ隣にあることです。嘉義城隍廟は1715年創建で、現在の古蹟本体は主に1936年から1940年にかけて修築されたものです。そして1985年に古蹟指定を受けています。市場と廟が隣り合うこの風景は、嘉義旧市街の成り立ちを今に伝える象徴的な景観の一つです。
嘉義市政府も、東市場周辺には城隍廟のほか、双忠廟、文昌祠、紅毛井などが集まり、旧城地区の歴史景観を学べる一帯だと紹介しています。つまり東市場は、ただ食べ歩きを楽しむ場所ではなく、嘉義という街がどう育ってきたのかを歩いて感じられる場所でもあります。市場で食べ、廟に手を合わせ、周辺の史跡を歩く。その流れ自体が、嘉義の歴史と暮らしに触れる体験になっています。

鶏

肉

魚
ここから先は、まいぷれ東村山・小平・東大和の編集部として見えてきた共通点です。
まず感じたのは、日常の食が、その土地の顔になっているということでした。東市場では、米糕や牛雜湯、排骨酥といった日常食が、市民に長く愛される名物として根づいています。一方、小平市でも、小平糧うどんは地域に伝わる郷土料理とされています。市報こだいらでは、糧うどんを「地粉を使った手打ちの太麺で、温かいつけ汁に『糧』というゆでた旬の野菜を入れて食べる料理」とも説明しています。華やかな観光グルメではなく、もともと地域の人の食卓にあったものが、そのまま土地のアイデンティティになっている。その構造は、東市場の食文化とも重なって見えます。
もう一つ印象的だったのは、木の記憶が街に残っていることです。嘉義の東市場には、檜木を使った骨組みが今も残っています。それは嘉義が木都として発展してきた歴史とも重なる風景です。北多摩でも、たとえば東村山には木造建築の歴史が色濃く残っています。もちろん市場の成り立ちも用途も違いますが、木の建築を単なる古さとしてではなく、地域の記憶として受け継いでいるという点で、どこか通じるものを感じます。これは史実の一致というより、現地を歩いたからこそ見えてくる感覚的な共通点かもしれません。
また、東市場はもともと山からの農産物が集まる場所として発展しました。つまり、人と物が集まる動線の上に街が育った場所です。小平にとっての玉川上水、北多摩における街道や流通の歴史を思い起こすと、人や物が行き交う場所が地域の核になるという構造そのものには、どこか親しみを覚えます。市場の規模も形も違いますが、街の成り立ちを支えてきたのが「集まる場所」だったという点は、北多摩を見てきた編集部だからこそ響く部分でした。
そして何より、東市場を歩いていて感じたのは、顔の見える商いの強さです。長く同じ味を守る店、朝の時間に自然と人が集まる場所、買い物のついでに言葉を交わす関係。そうした風景は、北多摩の商店街や直売所、個人店を取材するときに出会う空気ともよく似ています。これは資料で証明する種類の話ではありませんが、ローカルメディアとして地域を見てきた感覚の中で、東市場はとても親しい場所に映りました。
東市場の価値は、昔の建物が残っていることだけではありません。100年以上前に形づくられた市場が、今もなお地元の人の暮らしの中で使われ続けていることにこそ、大きな意味があります。毎日の買い物、朝ごはん、祈り、立ち話。そうした積み重ねが、そのまま市場の風景になっている。東市場は、嘉義の歴史を展示する場所ではなく、嘉義の暮らしそのものが今も息づく場所でした。
東村山・小平・東大和の視点から見ると、東市場は遠い台湾の市場ではありません。土地に根ざした食があり、木の記憶があり、人や物が集まって街が育ってきた歴史がある。そうした共通点をたどっていくと、嘉義の東市場は、初めて訪れてもどこか懐かしく感じられる場所でした。

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