まちの達人特集
(更新)
かずみさんが歩んできた、自分らしく生きるまでの道
「もし昔の自分に声を掛けられるなら、何と言いますか?」
そうお聞きすると、かずみさんは少し考えてから静かに答えました。
「もっと自分をしっかり持て。」
その一言には、誰にも言えない思いを抱えながら過ごした時間と、自分らしく生きることを選んだ人生の重みが込められていました。
かずみさん
子どもの頃は、お母様から「超わがまま」と言われるほど、自分の意思をしっかり持った子どもだったそうです。
そんなかずみさんの夢は、意外にも「パイロット」。
温かい家族に囲まれ、ごく普通の毎日を過ごしていました。
しかし、自分自身について深く考えるようになったのは、大人になってからでした。トランスジェンダーとして生きることへの葛藤。「生きづらさ」は確かにあったと言います。
それでも、「自分は自分」と心を強く持ち、自分らしく生きていこうと決めました。
かずみさんにとって、人生最大の転機となったのは40代の頃。当時勤めていた運送会社で、初めて職場のパートさんにカミングアウトしました。勇気を振り絞って伝えたその言葉に返ってきたのは、拒絶ではありませんでした。
「この人には話しても大丈夫。」
そう一人ずつ背中を押してくれたことで、やがて会社中の人が知ることになります。
「本当に良い会社でした。」
そう振り返るかずみさんの表情からは、支えてくれた仲間への感謝が伝わってきました。それまで誰にも言えずに抱えていた苦しさ。その長い時間を知っているからこそ、人とのつながりをより大切に感じるようになったのかもしれません。
かずみさん
これまで数多くのお店で経験を積んできたかずみさん。その中でも忘れられない出会いがあります。聖蹟桜ヶ丘で働いていた頃に出会ったスナックのママです。
「私を良い方向へ導いてくれた人。」
今でも尊敬している存在だと話します。人生は、人との出会いで大きく変わる。そのことをかずみさん自身が実感しているからこそ、今も人との縁を大切にしています。
現在は水商売一筋。しかし、最初から堂々としていたわけではありません。
そんな不安ばかりが頭をよぎり、初めてお客様の前に立った日は、緊張でほとんど話せなかったそうです。実は、人見知りな性格。
今では「話し上手」と言われるかずみさんですが、その姿からは想像もできない一面です。

この仕事の魅力を尋ねると、少し考えてからこう答えてくれました。
「普段出会えないような職業の人と話せることですね。」
さまざまな人生に触れ、多くの価値観を知る。だから自然と雑学も増え、会話も広がっていく。
「トーク力は、この仕事で育ててもらいました。」
一方で、お酒を扱う仕事ならではの苦労もあります。酔ったお客様への対応や、人間関係に悩むことも少なくありません。それでも続けてこられたのは、人と出会う喜びがそれ以上に大きかったからです。
お客様からよく言われる言葉があります。
そんな言葉をもらえることが、何よりうれしいそうです。自分では「明るくて暗い性格」と笑うかずみさん。落ち込んだ時は、無理に気持ちを切り替えるのではなく、友人と飲みに行って少しずつ前を向く。そして、何よりも大切にしているのは「信頼」。
「自分が信じた仲間は大事にする。」
その言葉には迷いがありませんでした。
将来の夢をお聞きすると、少し照れながら答えてくれました。
「自分の城を持って人生を全うしたい。」
もし自分のお店を開くなら。
「居心地が良くて、みんなが笑っていて、馬鹿騒ぎできるような楽しいお店。」
そして帰る時には、お客様にこう思ってもらえたらうれしいと言います。
「今日は本当に楽しかった。」
そんな空間をつくることが、かずみさんの目標です。
実はかずみさんには、結婚していた時期がありました。当時はまだ、自分のことをカミングアウトしていなかったそうです。
「あの時、もし話していたら何か違ったのかな。」
そんな思いが今も心のどこかに残っていると言います。だからこそ、最後に読者へ伝えてくれた言葉は、とてもシンプルでした。
「私なんかは波瀾万丈じゃないかもしれない。でも、それぞれが自分の人生に真っすぐ生きていってほしい。」
自分らしく生きることは、決して簡単ではありません。それでも一歩踏み出した先には、人との出会いがあり、支えてくれる仲間がいました。かずみさんの穏やかな笑顔の奥には、そんな人生の積み重ねが静かに息づいていました。
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