小平の食をつくる人たち/地産地消と学校給食のストーリー
(更新)
安全・栄養・おいしさ、そのすべてを一皿に込める献立づくりの舞台裏。
「今日の給食、おいしかった。」
子どもたちが毎日のように口にする、その何気ない一言。その一食が完成するまでに、どれほど多くの人の想いや工夫が積み重ねられているかを知る人は多くありません。これまで「小平の食をつくる人たち/地産地消と学校給食のストーリー」では、小平の畑で野菜を育てる農家さん、JA東京むさし、そして学校給食センターの役割をご紹介してきました。
今回のテーマは、その先にある「献立づくり」です。地元の野菜は、どのように一皿の給食へと姿を変えるのでしょうか。その舞台裏を知るため、小平市学校給食センターを訪ねました。お話を伺ったのは、小平市教育委員会教育部学務課 学校給食センター所長の藤井洋さんと、栄養指導担当管理栄養士の笹川なぎささんです。
取材の中で、最も心に残った言葉がありました。
「数字だけ追えば餌になってしまう。」
お話を伺うほどに、その言葉の意味が少しずつ見えてきました。
「一番大切なのは、安全です。」
そう話すのは藤井所長です。学校給食は、一日に何千人もの子どもたちが口にする食事です。もし一つでも事故が起きれば、その影響は計り知れません。だからこそ、給食センターでは衛生管理を何よりも優先しています。
例えば加熱調理。
食材は釜の中の三か所で中心温度を測定し、85℃以上になっていることを確認します。「でも、安全だからといって、全部を90℃以上まで加熱してしまえばいいというものではありません。」
笹川さんが続けます。
加熱しすぎれば、野菜は食感を失い、魚や肉も本来のおいしさが損なわれてしまいます。安全を守ること。そして、おいしさも守ること。一見すると相反するようにも思える二つを両立させることが、給食づくりの基本だといいます。
さらに、冷たい料理は真空冷却器で短時間に温度を下げ、菌の繁殖を防ぎます。温かい料理は温かいまま、冷たい料理は冷たいまま。子どもたちが「おいしい」と感じられる状態で学校へ届けるため、目には見えない工夫が積み重ねられていました。
「給食は、パズルなんですよ。」
取材中、笹川さんが笑顔でそう話してくださいました。最初は思わず聞き返してしまいました。
「パズル……ですか?」
「ええ。」
穏やかな口調でしたが、その言葉の意味を聞くうちに、給食づくりが私たちの想像をはるかに超える仕事であることが見えてきました。
「今日は何を作ろうかな。」では済まされない世界
家庭で献立を考えるとき、
そんなふうに決めることが多いのではないでしょうか。しかし、学校給食はそうはいきません。小平市学校給食センターでは、中学校約5,000食をAコース、約5,000食をBコースに分け、毎日約1万食を調理しています。献立を考えるときには、栄養価だけではなく、調理工程そのものまで設計しなければなりません。
例えば、
そして、完成した給食を学校へ運ぶコンテナへの積み込み時間まで計算に入れます。
「一つ変えると、全部が変わってしまうんです。」
藤井所長のその言葉に、思わずうなずきました。
献立とは、料理を決めることではなく、約1万食を時間どおり、安全に届けるための設計図でもあるのです。
藤井所長が、印象に残るエピソードを話してくださいました。ある日の献立では、Aコースを白ご飯、Bコースを混ぜご飯にする予定でした。ところが、調理工程を組み立て直していく中で、思わぬ問題が起こります。
調理設備や作業の流れを調整した結果、両方とも混ぜご飯になってしまう工程になっていたのです。
「気づいたときは、本当に大変でした。」
そのままでは予定どおりの献立を届けることができません。急きょ現場で対応を考え、人の手を使いながら工程を修正し、何とか予定どおり給食を届けることができたそうです。
一見すると小さな変更のように思えます。しかし、給食センターでは一つの修正が、設備、人員、時間、調理工程など、すべてに影響を及ぼします。
だからこそ、献立づくりは「パズル」なのです。
取材中、何度も感じたのは、現場に流れる緊張感でした。学校給食は、「今日は難しいのでお休みします」というわけにはいきません。子どもたちは、お昼になれば給食を待っています。どんな状況でも、決められた時間までに届けなければならない。その責任は、とても大きなものです。
さらに、衛生管理も同時に守らなければなりません。加熱温度の確認、調理器具の洗浄、作業動線の管理……。安全を最優先にしながら、時間とも戦う。
「給食はパズルなんです。」
最初に聞いたこの言葉の意味が、少しずつ分かってきました。一枚のピースを動かせば、全体を組み直さなければならない。その中で、安全、おいしさ、栄養、時間、設備、人員のすべてを成立させる。だから献立づくりは、栄養計算だけでは終わらない仕事なのです。
給食は、お腹を満たすだけの時間ではありません。子どもたちにとって、新しい文化や地域を知る「学びの時間」でもあります。
「和食、洋食、中華だけではなく、世界の料理や日本各地の郷土料理も取り入れています。」
笹川さんはそう話してくださいました。
例えば、修学旅行前には京都府の郷土料理を献立に取り入れ、旅先への興味を深めてもらう工夫。シンガポール料理など、海外の食文化に触れられる献立。以前には、小学校でサッカーワールドカップの対戦国に合わせ、その国の料理を提供したこともありました。
ただ、「海外の料理を出すこと」そのものが目的ではありません。料理を通して、その国や地域の文化、人々の暮らしを知るきっかけをつくること。それも給食が担う大切な役割の一つです。
印象的だったのは、フィリピン料理のお話でした。ある学校では、保護者がフィリピン出身だったことから、その方に料理について教えていただき、実際の献立づくりに活かしたことがあったそうです。また、第十三小学校ではフランス料理のシェフを招き、レストランとのコラボレーション給食を実施したこともありました。
食べることは、世界を知ること。
給食は、子どもたちの視野を少しずつ広げる役割も果たしています。

小平食育
「食育で何を伝えたいですか。」そう伺うと、お二人は少し考えながら、たくさんの言葉を挙げてくださいました。
どれも欠かせない、大切なことです。小平市では「小平市立小・中学校食育推進指針」に基づき、栄養士が学校へ出向いて食育を行っています。給食センターにいるだけでは、子どもたちが実際に給食を食べる様子を見ることはできません。だからこそ学校へ足を運び、子どもたちの声を聞く時間を大切にしています。
「中学生になると、牛乳を残してしまったり、魚が苦手だったりする子もいます。」
だからこそ、
栄養だけではなく、「食べること」の意味そのものを伝えています。中学校によっては、生徒と給食センターで交換ノートのようなやり取りを続けている学校もあります。
「今日の給食、おいしかった。」
そんな一言が届くたびに、次の献立づくりへの励みになるそうです。献立を考える仕事は、数字だけを相手にする仕事ではありません。その先には、子どもたち一人ひとりの笑顔があります。

小平食育
「小平市ならではの特徴はありますか。」
その問いに、藤井所長は迷わず答えました。
「やはり地場野菜ですね。」
小平市では、地元で収穫された野菜を積極的に学校給食へ取り入れています。
それも献立づくりで大切にしていることの一つです。さらに、小平市では低温殺菌の瓶牛乳も長く親しまれています。毎日何気なく飲んでいる牛乳にも、小平ならではのこだわりがあります。
また、小学校は各校で調理する「自校方式」、中学校は給食センター方式という違いがあります。
「センター方式でも、小学校と変わらないくらい、おいしい給食を届けたい。」
藤井所長と笹川さんはそう力強く話してくださいました。保温食缶は、思わず触るのをためらうほど保温性能が高く、できるだけできたてに近い温かさを保ったまま学校へ届けられています。
センター方式だから仕方がない。
そんな妥協はありません。設備や調理方法を工夫しながら、おいしさを追い求める努力が、今も続けられています。
給食は、学校だけで完結するものではなく、地域の農業や食文化、子どもたちの未来へと続いています。「小平の食をつくる人たち」は、これからも食を通してまちを支える人々の想いや取り組みを追いかけていきます。
※取材時点の情報です。掲載している情報が変更になっている場合がありますので、詳しくは電話等で事前にご確認ください。

【第7回】数字だけでは作れない。小平の給食、一皿に込められた想い
安全・栄養・おいしさ、そのすべてを一皿に込める献立づくりの舞台裏。

【第6回】給食とまちづくりをつなぐ人|萩山公園ライトアップとの意外な接点
萩山公園ライトアップにつながる話

【第5回】農家と学校をつなぐJAの仕事
小平の地産地消給食
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