暮らしと仕事の「?」を調べてみた
(更新)
ARTEXとClaude Codeの実態

図:公開資料をもとに編集部作成(生成AIを使用)
暮らしと仕事の「?」を調べてみた|AIとサイバーセキュリティ|2026年10月14日
韓国の金融機関を狙ったサイバー攻撃で、AIエージェントが利用されていたことを示す具体的な記録が明らかになりました。
米国のセキュリティ企業CrowdStrikeは2026年10月7日、攻撃者が管理していたとみられるサーバーから、AIツールの設定ファイルや会話履歴を発見したと公表しました。
今回の問題は、AIが勝手に銀行を攻撃したという話ではありません。人間の攻撃者がAIを利用することで、従来よりも効率的に攻撃を進められる可能性が示されたことです。
攻撃に関連するサーバーから、AIによる侵入テストツール「ARTEX」、Claude Codeの会話履歴、AIのメモリーファイルが見つかりました。ただし、AIが攻撃の全工程を自律的に実行したとまでは確認されていません。
2026年9月下旬から10月上旬にかけて、韓国の複数の金融機関がサイバー攻撃の標的となり、顧客情報などの流出が報じられました。
CrowdStrikeの報告によると、ある銀行では融資の進捗を照会するサービス、別の銀行では従業員向けのモバイル業務支援システムが侵害されたと報じられています。
Reutersは10月9日、少なくとも9行が攻撃の標的として報告されていると伝えました。ただし、すべての銀行で同一の攻撃者や同じAIツールが使われたと確認されたわけではなく、被害の全容は調査中です。
CrowdStrikeが調べたのは、攻撃者が管理していたとみられるインターネット上のサーバーです。
そこには、外部から閲覧可能な状態になっていたファイル群があり、次のような資料が含まれていました。
これらの資料を分析することで、攻撃者がどのようなAIツールを組み合わせていたのかが、具体的に見えてきました。
単に「攻撃にAIが使われたらしい」という推測だけではなく、実際の利用環境に残された記録が調査の根拠になっています。
ARTEXは、コンピューターシステムの弱点を調べる「侵入テスト」をAIで支援・自動化するために開発されたツールです。
侵入テストは本来、企業などが自社システムの安全性を確認するために、許可を得て実施するものです。
ARTEXは単独のAI言語モデルではなく、外部のAIモデルと接続して作業を進める仕組みです。
CrowdStrikeが確認した環境では、主にDeepSeekのモデルが使用され、別のClaude CodeセッションではGLMやGrokも補助的に利用されていました。
※公開調査をもとに編集部作成した概念図。実際の攻撃手順を再現したものではありません。
重要なのは、AIが便利な作業支援ツールになる一方で、その機能が悪意ある人物にも利用され得るという点です。
CrowdStrikeの報告では、攻撃者がClaudeに対して、韓国で流出したデータが一般的にどこで売買されるかを尋ね、Telegram上のデータ売買グループを探す支援も求めていたことが明らかになりました。
ただし、この記録だけでClaudeが実際のデータ売買を実行した、あるいは情報流出を直接引き起こしたとはいえません。
AIへの質問内容、AIが返した内容、実際に行われた犯罪行為は、それぞれ分けて考える必要があります。
CrowdStrikeは、中国語による指示やツールの利用状況などから、攻撃者が中国語話者で、金銭的利益を目的としていた可能性があると分析しています。
また、Claude Codeの会話履歴には、中国・広東省に住む26歳の人物を示唆する情報も含まれていました。
しかし、これらの情報が実際の攻撃者本人のものであるとは確定していません。
中国政府など国家機関の関与を裏付ける証拠も、この報告からは確認できません。
事件の公表後には、ツールの開発側にも動きがありました。
Reutersの10月9日付報道によると、ARTEXの開発者は悪用を受け、プロジェクトを非公開化し、今後の一般向け公開版や保守サポートを終了する方針を示しました。
開発者は、もともと企業や組織がセキュリティ上の弱点を確認するためのツールだったと説明し、違法な利用に反対する立場を表明しています。
この対応は、セキュリティ向上のために開発されたAIツールが、犯罪にも転用され得るという難しい問題を浮き彫りにしています。
今回の事案を「AIが勝手に銀行を攻撃した事件」と理解するのは正確ではありません。
確認されているのは、人間の攻撃者がAIツールと従来の攻撃技術を組み合わせていたことです。
AIが具体的にどの工程をどこまで自律的に進めたのか、すべてが解明されたわけではありません。
一方、CrowdStrikeは、AIの利用によって金銭目的の攻撃者が短期間に複数の侵入を行えるようになる可能性を指摘しています。
AIが人間の仕事を効率化するなら、犯罪も効率化してしまうのでしょうか。便利な技術を社会に広げることと、悪用を防ぐことをどう両立するのかが問われています。
今回の攻撃は韓国で起きましたが、日本の企業や自治体にとっても無関係ではありません。
顧客情報を管理する店舗、予約システムを利用する事業者、住民情報を扱う自治体など、多くの組織がインターネット上のサービスに依存しています。
AIによって攻撃の一部が効率化されれば、大企業だけでなく、十分な専門人材を確保できない中小企業も標的となる可能性があります。
そのため、基本的な対策として、システムの更新、多要素認証、アクセス権限の見直し、情報のバックアップ、外部委託先の安全管理などを継続することが重要です。
今回の事案は、こうした対策が不要になったことを示すものではありません。むしろ、基本的な防御を着実に実施する必要性を改めて考えさせます。
AIの利用記録が発見されたことは重要ですが、それだけですべての疑問が解決したわけではありません。今後の捜査や追加の技術分析を確認する必要があります。
AIの安全性というと、AI自身が誤った判断をしたり、人間の指示から外れて行動したりする問題が注目されがちです。
しかし、今回の事案は別の側面を示しています。
AIが人間の指示に従っていても、その指示を出す人間が悪意を持っていれば、社会に被害をもたらす可能性があるということです。
AIの能力が高まるほど、誰が、どのような目的で、どこまでの権限を与えて利用するのかが重要になります。
便利さと安全性をどう両立するのか。今回の事案も、引き続き調べていきます。
※本記事は2026年10月14日時点で公開されている調査資料・報道に基づき編集部が整理したものです。調査機関による分析と未確定事項を区別して掲載しています。
※取材時点の情報です。掲載している情報が変更になっている場合がありますので、詳しくは電話等で事前にご確認ください。