東村山・小平・東大和で挑戦する人・事業者のストーリー
(更新)
パーチ井上さんが東大和市駅前で始める新たな挑戦
東大和市駅前に、2026年秋、新しい学びの場が生まれようとしています。準備を進めているのは、教育事業「パーチ」の井上さんです。これまでオンラインを中心に、学校への行き渋りや不登校など、さまざまな事情を抱える子どもたちの学習を支援してきました。現在、個別に伴走するオンラインの受け入れ枠は満員になっています。
そして今、井上さんは次の一歩として、学習塾とフリースクールの機能を持つ、実際に子どもたちが通える場所をつくろうとしています。
「このまちで、はじめる。」第1回は、新拠点のスタートを目前にした井上さんを訪ねました。
パーチ井上さん
新しい拠点は、東大和市駅前エリアの小平市側にあります。9月1日から入居し、9月14日にプレオープン。10月には学習塾として本格的なスタートを予定しています。
取材時、室内にはまだ机も椅子もありません。
この何もない空間に、これから学習塾とフリースクールの機能を持つ場所をつくっていきます。これまでパーチでは、学校への行き渋りや不登校などを抱える子どもたちに、オンラインを中心とした個別の学習支援を行ってきました。
現在はオンラインの受け入れ枠が満員に。一人ひとりに向き合う今の形では、井上さん一人で対応できる人数にも限界がありました。新拠点では、もう一人のメンバーとともに運営していく予定です。
オンラインから、実際に通える場所へ。その背景には、井上さんが20歳の頃から抱いてきた思いがありました。
井上さんは、パーチを始める以前、中高一貫校や通信制高校などで働いてきました。しかし、「いつか自分で教育の場をつくりたい」という思いは、学生時代から持っていたといいます。
「20歳の頃から、自分の学校をつくりたいと思っていました。人生の目標です」
きっかけの一つになったのが、学校に入れなくなってしまった子どもたちの存在でした。
「学ぶ権利があるはずなのに、学校に行けないことで、その機会まで失われてしまう。そういう子たちをサポートしたいと思っていました」
学生時代にはフリースクールでボランティアを経験。そのまま不登校支援の仕事に進むことも考えていました。ところが、働こうとしていたフリースクールから、経営上の事情で雇用が難しくなったとの連絡を受けます。
その後、求人をきっかけに通信制高校のサポート校へ。そこでは、1学年100人を超える生徒を2人で担当しました。
さまざまな背景を持つ高校生と向き合うなかで、井上さんは、さらにその前の小中学生の時期の学びについて考えるようになります。
「義務教育の段階で、進路を切り開けるような存在になれればと思ったんです」
教育現場で働く一方で、組織の中だからこその難しさも感じていました。学校に来られない生徒のために学習会を開こうとしても、運営上の事情から思うように動けないことがあったといいます。目の前に困っている子がいるのに、自分のできることを十分にできない。
「自分でやった方がいいと思っていました」
もう一つ、井上さんが考えていたのが、教育とお金の問題でした。かつて関わったフリースクールでは、経営上の事情から働くことができなかった。一方で、通信制高校では家庭にとって学費が大きな負担になるケースも見てきました。必要な支援を続けるには、事業として成り立たせなければならない。
それでも、学校に行けないことで学ぶための負担まで増えてしまう状況を、何とかできないか。そんな問題意識から、自ら教育事業を始めました。井上さんが掲げているテーマは、
「Knowledge to You(知識をあなたに)」
学校に行けない子にも、経済的な事情を抱える子にも、知識を届けられる環境をつくりたい。
「パーチ(perch)」は、英語で「止まり木」という意味です。「子どもたちがここで休んで、そこから羽ばたいていってほしい」もともとフリースクールをつくることを前提に名付けたため、今回の拠点づくりについては「やっとできた」という感覚だと話します。
新しい拠点について話を聞くなかで、印象的だった言葉があります。
「自分は、塾=フリースクールだと思っています」
学校に行けないからフリースクール。
学校に通っているから学習塾。
井上さんは、最初からそう分けて考える必要はないのではないかと考えています。学校に行けない子も、学校には通えているけれど自分のペースでもっと学びたい子も利用できる。新拠点では基礎学力を整えることを重視し、オンライン学習教材「すらら」も活用する予定です。子ども自身で学習を進められる環境を用意しながら、教育現場を経験してきた井上さんたちが一人ひとりに伴走します。
学習塾は火曜日から土曜日の16時30分~21時30分、フリースクールは8時30分~15時30分での運営を予定しています。
オンラインから利用を始め、少しずつ場所に慣れてから実際に通うという形も考えています。そして今回、井上さんが大きな決断をしたのが、フリースクールを利用する家庭の費用負担をゼロにすることです。東京都の助成制度を活用することを前提に、家庭から利用料を受け取らない形での運営を目指します。
利用者の負担をなくすことは、運営する側にとってリスクのない選択ではありません。それでも井上さんがこの形を選んだ背景には、これまで教育現場で感じてきた「学ぶためのお金」の問題があります。
学校へ行くことが難しくなった子どものために別の学びの場を探したとき、その費用が新たに家庭の負担になる。
「親御さんの負担を考え、そのようにしました」
学びたい子どもが、費用を理由に選択肢を失わないようにする。
「Knowledge to You」という考えを、新しい拠点の運営そのものでも形にしようとしています。
今回の場所を選んだ理由の一つが、東大和市駅の立地でした。所在地は小平市ですが、東大和市や立川市に近く、東村山市方面からもバスでアクセスできます。地域の子どもたちが実際に通える選択肢を増やしたい。その思いが、オンラインだけではなく「場所」を持つ今回の挑戦につながっています。
スペースは、およそ7割を学習塾、3割をフリースクールとして使用する構想です。フリースクール側にはソファやテレビなどを置き、勉強するだけではなく、子どもたちが過ごせる場所を目指します。思い描いてきた教育を、実際に続けられる事業としてどう形にするのか。
井上さんの挑戦は、まさにこれからです。
井上さんが目指しているのは、単に新しい学習塾をつくることではありません。
「教育=学校、という考えを外したいんです」
学校だけが学ぶ場所ではない。家で学んでもいい。フリースクールで学んでもいい。学校に通いながら、自分に合った別の学び方を選んでもいい。
20歳の頃に思い描いていた「自分の学校」は、さまざまな教育現場を経験するなかで、学校という形だけにとらわれない「学ぶ場所」へと変わってきました。そして今、その考えを実際の場所にする挑戦が始まろうとしています。
9月14日のプレオープン、そして10月の本格スタート。
まだ何も置かれていなかったこの場所に子どもたちが通い始めたとき、何が起きるのでしょうか。オンラインから実際の場所へ進むことで、井上さんが考えていたことと現実に違いは生まれるのか。そして、この場所を利用する子どもたちによって、パーチ自身がどう変わっていくのか。
「このまちで、はじめる。」では、新拠点が動き始めたその後も、井上さんの挑戦を追っていきます。
※取材時点の情報です。掲載している情報が変更になっている場合がありますので、詳しくは電話等で事前にご確認ください。

【パーチ井上さん・第1回】学校に行けなくても、学ぶ機会はなくさない。
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