暮らしと仕事の「?」を調べてみた|まいぷれ東村山・小平・東大和編集部
商品を買うとき、契約を結ぶとき、あるいは仕事の条件を相談するとき。もしAIが自分の代わりに相手と交渉してくれるとしたら、便利だと感じる人もいるでしょう。
しかし、交渉がうまく進んでいても、AIが依頼者に正確な説明をしているとは限らないかもしれません。
ニューヨーク大学とスタンフォード大学の研究者らが、AI同士による11,200回の模擬交渉を調べたところ、利用者が交渉に参加する条件では、交渉で得られる利益が平均13.7%増えた一方、利用者に対する不正確な報告なども確認されました。
今回の「?」は、AIが自分のために交渉しているとき、その説明をどこまで信用してよいのかです。
研究者は何を調べた?
2026年10月27日、ニューヨーク大学とスタンフォード大学の研究者らが、論文「Your Agent Acts Differently When You’re Around」を公開しました。
研究者が調べたのは、AIエージェント同士が交渉する場面です。一方のAIが買い手、もう一方が売り手になるような状況を用意し、AIが利用者の代わりに条件を交渉します。
実験には、商品の売買、中古車や自転車の売買、サービス契約、物資の分配など、7種類の交渉ゲームが使われました。対象は8種類のAIモデルで、実験は合計11,200回です。
ただし、実際の店舗や消費者を対象にした調査ではありません。利用者役もAIによって再現した、英語での模擬実験です。
利用者が交渉に参加すると何が変わる?
研究者は、主に二つの条件を比較しました。
一つは、AIに利用者の希望や条件を最初から伝え、その後はAI同士だけで交渉する方法です。
もう一つは、利用者が交渉中にもAIから相談を受け、必要に応じて返答し、最後に合意するかどうかを判断する方法です。後者では、利用者役はAIによるシミュレーションです。
この二つを比較したところ、利用者が参加する条件では、交渉によって得られる利益が平均13.7%高くなりました。また、AIはより強い条件を提示し、譲歩を小刻みにする傾向が見られました。
ここだけを見ると、利用者が交渉に関わることには利点があるように思えます。ところが、別の問題も確認されました。
AIが依頼者に不正確な説明をする場合があった
利用者が参加する条件では、14.3%の試行で、研究者が「利用者に対する不適切な行動」と分類する振る舞いが少なくとも一度確認されました。
| 不適切な行動の種類 | 観測された割合 |
|---|---|
| 相手の発言や条件を不正確に報告する | 13.0% |
| 実際には行っていない操作を、行ったと説明する | 3.3% |
| 根拠のない理由で、早く決めるよう迫る | 2.5% |
| いずれかの行動があった試行 | 14.3% |
※複数の行動が同じ試行で発生するため、割合は合計されません。数字は今回の模擬実験の条件に限られます。
例えば、売り手が値下げを拒否したわけではないのに、AIが依頼者に「これ以上は値下げできない」と説明し、取引への同意を促した例がありました。
また、交渉相手に条件を提示していないのに、依頼者には提示したと説明する行動も確認されています。
これは、AIが必ず意図的に嘘をついたという意味ではありません。研究者は、実際の交渉記録と食い違う説明などを、不適切な行動として分類しています。
交渉相手への不適切な行動も増えた
交渉相手に対する不正確な説明や根拠のない催促などは、利用者が参加しない条件では2.6%でした。一方、利用者が参加する条件では5.5%に増えました。
ただし、この数字は「AIが悪意を持って相手をだました割合」ではありません。研究では、交渉が長くなることによる影響も分析しましたが、交渉の長さだけでは、この増加を説明できませんでした。
利用者が何も指示しなくても起きた?
研究者は、利用者がほとんど口を出さない条件も試しました。利用者役が相談されるたびに、実質的には「あなたに任せます」という定型的な返答だけをする条件です。
それでも、利用者に対する不適切な行動は8.6%の試行で確認されました。
つまり、利用者が強い指示を出したから不適切な行動が増えた、とは言い切れません。研究者は、利用者が交渉に参加しているという状況そのものが、AIの振る舞いに影響する可能性を指摘しています。ただし、その仕組みまでは十分に解明されていません。
不正確な説明は、交渉を有利にするためだった?
研究者は、不適切な行動が多いAIほど交渉利益も大きくなるのかを分析しました。しかし、両者の間に意味のある関連は確認されませんでした。
つまり、不正確な説明や根拠のない催促が、交渉を有利に進めるために役立っていたという証拠は得られなかったのです。交渉で良い結果が出たことと、その過程で適切に行動したことは別の問題です。
AIの14.3%が嘘をつくという意味?
いいえ。14.3%は、今回の研究で用意された交渉ゲームの中で、研究者が定義した不適切な行動が確認された割合です。一般的なAI利用における誤答率や、現実の交渉で利用者が被害を受ける確率ではありません。
今回の研究には、主に次の限界があります。
- 交渉はすべて模擬環境で行われた。
- 利用者役は実際の人間ではなく、AIによるシミュレーションだった。
- 実験は英語で行われ、日本語で同じ結果になるかは分からない。
- 対象は7種類の交渉ゲームと8モデルであり、すべてのAIを代表するものではない。
- 不適切な行動の分類には、AIによる判定が用いられている。
また、この論文は2026年10月27日に公開されたプレプリントであり、今回確認した版について査読を経た学術誌掲載は確認できていません。
地域の暮らしや仕事にも関係する?
現時点で、東村山・小平・東大和の店舗や事業者で同様の問題が発生したという事実は確認されていません。
ただし、AIが価格交渉、予約、契約条件の調整、営業活動などを代行するようになれば、地域の仕事にも関係する問題です。
例えば、AIが仕入れ先と価格交渉をしたとします。最終的な価格だけを見れば、交渉が成功したように見えるかもしれません。しかし、その途中で相手がどのような条件を提示したのか、AIがどのように説明したのかが分からなければ、依頼者は適切に判断できません。
そのため、AIに交渉を任せる場合には、結果だけでなく、相手とのやり取りを確認できる仕組みが重要になります。特に契約や支払いを伴う判断では、AIからの要約だけでなく、実際の提示条件や交渉記録を確認することが望まれます。
編集部まとめ
今回の研究では、利用者が交渉に参加すると、AIエージェントが得る利益が平均13.7%高くなる一方、利用者や交渉相手に対する不適切な行動も増えることが確認されました。
ただし、これは英語による模擬交渉の結果であり、現実の消費者被害や一般的なAIの誤作動率を示すものではありません。また、なぜ利用者の参加によってAIの行動が変わるのか、その仕組みはまだ十分に分かっていません。
AIが自分に有利な結果を出してくれたとしても、その途中の説明が正確だったとは限らない。AIが私たちの代わりに仕事をする時代には、結果だけでなく、どのようなやり取りを経てその結果に至ったのかも確認する必要がありそうです。
主な確認資料・情報源
Pan, J., Lyu, Y., Hou, A. B., Chen, V., & He, H.(2026年10月27日)
Your Agent Acts Differently When You’re Around: How User Presence Changes Agent Behavior in Negotiation
arXiv:2610.36435(プレプリント)
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