暮らしと仕事の「?」を調べてみた
(更新)
AIを使った「偽の記者」の記事が本物のメディアに掲載された問題を調べてみた

図:公開資料をもとに編集部作成(生成AIを使用)
暮らしと仕事の「?」を調べてみた|AI・情報の信頼性
いつも読んでいるニュースサイトに掲載された記事。その記事を書いた「記者」が、実は存在しない人物だったとしたら――。
2026年10月8日、OpenAIは、ロシアとイランに由来する二つの秘密裏の情報工作について調査結果を公表しました。イラン発の活動では、架空の記者名を使った記事が実在するニュースサイトに掲載され、ロシア発の活動では、現地の関係者が背後の運営主体を知らないまま研究組織の活動に参加していたとみられます。
問題は、AIが文章を作れることだけではありません。本物のメディアや組織を通じて発信されることで、情報の出どころが見えにくくなるという点です。
OpenAIによると、イラン発の活動では、欧米の記者を装う7つの名義を使って、米国とイランの対立などを扱う英語の記事をオンライン媒体へ売り込んでいました。
ChatGPTは、原稿を投稿先の規定に合わせて修正することや、編集者への売り込みメールを作ることなどに使われていました。記事には人物紹介文やSNSアカウントも付けられ、実在する書き手であるかのように見せていたといいます。
OpenAIは、2025年7月から2026年10月にかけて、約12のオンライン媒体で掲載・転載された記事を約100本確認しました。一部の記事は掲載先メディアのSNSでも紹介されていました。
記事が掲載された事実は確認されていますが、掲載記事のすべてをAIが一から書いたとまでは確認されていません。また、記事の主張がすべて虚偽だったという意味でもありません。問題の中心は、書き手の身元と活動の目的が偽装されていたことです。
米紙Washington Postは10月9日、掲載先のメディアや記事の提供に関わった団体を取材しました。米フロリダ州の地方紙に掲載された意見記事も、この工作に関連するものとして報じています。
記事を提供した団体は、AIを利用した活動との関係を知らなかったと説明し、AIに関する投稿方針を見直したと報じられました。これは、情報を受け取った側も発信者の実態を把握できていなかった可能性を示しています。
もう一つの事例は、南米で活動する「Social Research Center(SRC)」と称する研究組織をめぐるものです。
OpenAIが確認した内部報告によると、ロシア発の活動主体は、架空の人物「Mia Clark」を通じて組織を運営していたとみられます。採用や給与などの意思決定にも関与していたことを示す記録があり、現地の職員は背後のロシア発の運営主体を知らなかった可能性があります。
この活動では、偽の文書や音声用の台本、報告書なども作成されていました。ただし、AIの利用は内部報告書の作成が大きな割合を占め、確認された偽情報のすべてをAIが生成したわけではありません。
OpenAIは情報工作の広がりを6段階で評価する「IO Breakout Scale」を用い、ロシア発の活動をカテゴリー5、イラン発の活動全体をカテゴリー4と評価しました。ロシア発のカテゴリー5は、同社が公表してきた阻止事例の中では初めてだとしています。
ただし、これは実際に何人の考えが変わったか、選挙や外交にどの程度影響したかを測定した結果ではありません。また、発信元の国と、その国の政府による直接の指揮・関与は分けて考える必要があります。
地域のニュースサイトにも、イベント案内、団体からの情報提供、寄稿、取材依頼など、さまざまな情報が届きます。文章が自然で、肩書やSNSアカウントが整っていても、それだけで情報提供者の身元を保証することはできません。
情報を掲載する側には、内容の確認に加え、誰が、どの立場から、何の目的で情報を届けているのかを確かめる姿勢が求められます。
今回の事例は、AIによる情報工作がSNSの偽アカウントだけでなく、既存の報道機関や研究組織を通じて行われ得ることを示しています。
AIが文章を自然に整えるほど、文章の違和感だけで工作を見抜くことは難しくなります。だからこそ、情報の内容だけでなく、その情報がどのような経路で届けられたのかを確認することが大切です。
「どこに載っていたか」と「誰が発信したか」。この二つを分けて考えることが、情報を見極める第一歩になるのではないでしょうか。
※本記事は2026年10月14日時点で確認できる公開資料に基づきます。活動の影響や関与主体について、確認されていない事項は断定していません。
※取材時点の情報です。掲載している情報が変更になっている場合がありますので、詳しくは電話等で事前にご確認ください。