暮らしと仕事の「?」を調べてみた|世界AI重要事案
44のAIエージェントが日本の組織を標的に――トレンドマイクロが調査した3つの攻撃基盤
AIを使ったサイバー攻撃というと、AIが攻撃方法を考え、人間の代わりにすべてを実行する姿を想像するかもしれません。しかし、実際の攻撃では、AIがどこまで関わっているのでしょうか。
トレンドマイクロのセキュリティ研究部門TrendAIは、日本を重点的に狙った3つの攻撃基盤を調査し、2026年10月23日に日本語の報告を公表しました。その中には、44のAIエージェントが役割分担して攻撃工程を自動化していた事例がありました。
一方、別の事例では、人間の攻撃者がAIを補助的に使い、日本の組織から大量の情報を盗み出していたことも報告されています。重要なのは、この二つを混同しないことです。
今回の「?」
日本を狙った攻撃で、AIは実際に何をしていたのでしょうか。3つの攻撃基盤の違いを、調査資料から確認します。
調査対象は、攻撃者側に残されていた記録
TrendAIが調べたのは、攻撃者が使用していたサーバーに、外部から閲覧できる状態で残されていたファイルです。攻撃対象の一覧、プログラム、操作履歴、実行結果などを分析し、AIの関与を3つの事例に分けました。
ただし、調査は主に攻撃者側の記録に基づいています。被害組織のログを全面的に照合したものではなく、攻撃者の記録にある「成功」をすべて確認済みの被害とは扱えません。
| 事例 | AIの関与 | 確認された活動 |
|---|---|---|
| A | 44のAIエージェントが役割分担 | 少なくとも19組織を検証対象に。うち16組織以上が日本 |
| B | 人間主導、AIが計画・ツール作成を支援 | 日本の約6,000 IPを走査。GISサーバーなどからの情報窃取 |
| C | ツール開発へのAI利用を高い確度で推定 | VPNなどを攻撃し、内部ネットワークへの接続成功を確認 |
事例A|44のAIエージェントが役割を分担
最もAIの関与が大きかったのが、CyberStrikeAIというAIエージェントを利用する攻撃基盤です。44のエージェントが、攻撃対象の調査、脆弱性の検証、侵入の試行、結果の記録、報告書の作成などを分担していました。
2026年10月の短い期間に、少なくとも19組織を対象に検証を行い、そのうち16組織以上が日本に所在していました。
ただし、19組織すべてへの侵入が成功したわけではありません。 多くの対象では、攻撃基盤自身が侵入や情報持ち出しに成功していないと記録していました。深い侵入を裏付ける証拠は一部に限られています。
事例B|人間主導の攻撃で、実際の情報窃取を確認
別の攻撃基盤では、人間が攻撃を主導し、AIは計画作成やプログラム開発を支援していました。攻撃者は日本国内の約6,000のIPアドレスを走査し、古いWebシステムや地理情報システム(GIS)などを標的にしていました。
TrendAIは、初期設定の認証情報が残されたGISサーバーから、数十万件規模の土地・商業関連記録や認証情報などが盗み出されたことを、攻撃者側の記録から確認したとしています。
数字を混同しないために
「44のAIエージェント」は事例Aの話です。「数十万件規模の情報窃取」は、人間主導の別の攻撃基盤である事例Bの話です。44のAIが大量の情報を盗んだと断定することはできません。
事例C|AI利用は推定だが、VPN接続成功を確認
3つ目の事例では、VPN機器やWebLogicサーバーなどが標的となりました。攻撃者は入手した設定ファイルに残された認証情報を利用し、企業の内部ネットワークへの接続に成功していました。
ただし、AIの関与については、プログラムの特徴などから研究者が高い確度で推定したものです。AIへの指示文やAPIキーといった直接的な証拠は確認されていません。
AIが新しい侵入方法を発明したの?
今回目立ったのは、外部に公開された管理画面、古いシステム、初期設定の認証情報、設定ファイルに残されたパスワードなど、以前から知られている弱点の利用です。
AIによって変わり得るのは、弱点を探し、検証し、結果を整理する作業の規模や速度です。ただし、AIを利用したことと、攻撃に成功したことは別です。
攻撃者はどこの国の人なの?
3つの攻撃基盤では簡体字中国語が作業言語として使用されていました。しかし、言語だけで攻撃者の国籍、所在地、政府との関係を特定することはできません。3つの基盤が同一の人物や組織によって運営されたかも不明です。
地域の事業者にも関係する?
今回の調査で、東村山・小平・東大和の事業者が被害を受けたと確認されたわけではありません。それでも、予約管理、顧客情報管理、店舗Webサイト、遠隔接続用VPNなどを利用する事業者にとって参考になる事例です。
古い管理画面が外部に公開されたままになっていないか、使われなくなったアカウントが残っていないか、改めて確認することが重要です。
- ソフトウェアとVPN機器を更新する
- 管理画面の公開範囲とアクセス権限を見直す
- 初期パスワードを変更し、多要素認証を利用する
- 不要なアカウントを削除し、バックアップを点検する
編集部まとめ|AIの役割と実際の被害を分けて考える
トレンドマイクロの調査では、日本を重点的に狙った3つの攻撃基盤で、異なる形のAI利用が確認・推定されました。
44のAIエージェントが攻撃工程を自動化した事例がある一方、大量の情報窃取が確認されたのは、人間主導でAIを補助的に利用した別の事例です。攻撃者の身元や被害の全容は分かっていません。
今回考えたいのは、これまで人間が時間をかけて探していた弱点を、AIによって大量かつ継続的に探せるようになることです。 古いシステムや不要な権限を放置しない基本対策が、地域の事業者にも重要になります。
主な確認資料・情報源
トレンドマイクロ(2026年10月23日)
日本語原典:日本を狙う3つの攻撃基盤の調査
TrendAI(2026年10月27日・英語版)
Not Only ARTEX: The Different Levels AI is Used in Attacks Targeting Japan
※企業のセキュリティ研究部門による調査報告であり、すべての被害組織に対する独立検証ではありません。








