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暮らしと仕事の「?」を調べてみた

AIの回答はGoogle検索より狭い?

(更新)

7000万件の分析で見えた「知識の均質化」

図:公開資料をもとに編集部作成(生成AIを使用)

AIに聞くほど、みんな同じ情報を見る?7000万件の分析から見えた「知識の均質化」

 

「分からないことがあったら、まずAIに聞く」。

 

そんな使い方が、少しずつ当たり前になってきました。

  • 料理の方法
  • 仕事の調べもの
  • 旅行先
  • 歴史
  • 社会問題

これまで検索エンジンでいくつものページを見比べていたことを、AIに質問して一つの回答として受け取る機会も増えています。では、私たちがAIから受け取っている情報は、従来のWeb検索と同じくらい幅広いのでしょうか。

University of Copenhagen(コペンハーゲン大学)などの研究チームが、大規模言語モデル(LLM)の回答に含まれる「知識の多様性」大規模に調べました。

 

対象は27のLLM、155テーマ、約170万件の回答。

 

そこから抽出された約7000万件の「主張」を分析した結果、調査対象となったすべてのシステムで、Web検索を基準とした場合より、回答に現れる知識の多様性が低いことが確認されました。

 

ただし、これは「AIは検索より間違っている」という研究ではありません。

 

今回測られたのは、正しさではなく「どれだけ異なる情報が出てくるか」です。

 

「知識の多様性」って何?


研究チームが調べたのは、「epistemic diversity(認識的・知識的多様性)」と呼ばれるものです。簡単に言えば、同じテーマについて質問を繰り返したとき、どれだけ幅広い現実世界についての主張が回答に現れるかということです。

 

研究では、実際の利用者の質問をもとにした200種類のプロンプトを使い、27のLLMに155のテーマについて回答させました。そして、それぞれの文章を「現実世界について述べている個別の主張」に分解し、意味の近いものをまとめることで、どれだけ異なる情報が現れたのかを分析しています。

 

最終的な規模は、約170万件の回答、約7000万件の主張に上ります。

 

AIはWeb検索より「情報の幅」が狭かった

 

結果は興味深いものでした。研究対象となったすべてのシステムで、通常のWeb検索を基準とした場合より、知識の多様性が低くなりました。研究で最も高い多様性を示したLLMはOpenAIのGPT-5でした。それでも、研究で設定された検索ベースラインは、GPT-5より少なくとも18.7%高い多様性を示しました。

 

ここで、特に注意したいことがあります。

 

「GPT-5はGoogle検索より18.7%間違っている」という意味ではありません。正解率や事実の正確性を比較した数字ではなく、「回答の中に、どれくらい異なる情報が現れるか」を比較した数字です。

 

しかも研究で使われた検索側の基準は、各テーマを単純な検索語としてGoogleで検索し、最大40件の上位ページを利用したものです。研究者自身も、これを強力な検索システムではなく、比較的単純な基準として位置づけています。

 

なぜAIの回答は似てくるの?

 

研究者は、その背景の一つとしてLLMの仕組みそのものを挙げています。LLMは大量の文章からパターンを学び、質問に対してもっともらしい文章を生成します。その過程では、頻繁に現れる情報や典型的な説明が強く反映される一方、一般的なパターンから外れた情報は表に出にくくなる可能性があります。

 

大きなAIほど多様とは限らなかった

 

もう一つ興味深い結果があります。一般には、AIモデルは大きく、高性能になるほど、より幅広い回答ができそうに思えます。しかし今回の研究では、モデルサイズが大きいほど知識の多様性が低くなる統計的な傾向が確認されました。

 

研究チームは、大規模化による性能向上には、情報の多様性という別の側面では代償が生じる可能性があると指摘しています。一方で、検索など外部情報を取り込んで回答するRAG(Retrieval-Augmented Generation)では、知識の多様性が有意に改善しました。

 

つまり、AIそのものを大きくすることと、幅広い情報源へアクセスさせることは同じではないということです。

 

「英語で知られている世界」に寄っている?


さらに重要なのが、国や言語による違いです。研究チームは国別のテーマについて、LLMの回答に含まれる主張と、英語版・現地語版Wikipediaに含まれる主張を比較しました。対象となった8カ国のうち5カ国で、英語側と現地語側の知識の反映には統計的に有意な差がありました。そして、現地語側の知識が英語側より有意に強く反映された国はありませんでした。

 

研究対象となった英語LLMへ英語で質問した場合、その地域で現地語によって記録されている知識より、「英語でその地域がどう説明されているか」が反映されやすいことを示す結果です。

これは地域情報を考えるうえでも重要です。

 

「知識崩壊」はもう始まっている?

 

研究者は、AIによる「knowledge collapse(知識崩壊)」がすでに起きているとは結論づけていません。むしろ今回の研究では、ここ数年間でLLMの知識の多様性は全体として改善していることも分かりました。新しいモデルほど多様性が高くなる傾向があり、研究者はこれを前向きな結果として評価しています。問題視されているのは、その先です。

 

もし多くの人がWebサイトや本、地域メディアなどを直接見るのではなく、AIを情報への入り口として使うようになったら。さらに、そのAIが作った文章がインターネット上に増え、次世代のAIがそれを学習するようになったら。もともとAIが出しやすかった情報がさらに増え、それ以外の情報が見えにくくなる。

 

そうした循環によって、私たちが触れられる知識の幅が長期的に狭くなっていく可能性を、研究者は「knowledge collapse」のリスクとして指摘しています。現時点で知識崩壊が起きていると証明した研究ではなく、その条件になり得る仕組みが存在することを示した研究と考えるのが適切でしょう。

 

地域の情報で考えてみると?


ここからは、私たちの暮らしに置き換えて考えてみます。

たとえばAIに、

  • 「このまちの魅力は?」
  • 「この地域でおすすめのお店は?」
  • 「この地域にはどんな文化がある?」

と質問したとします。有名な観光地、大きなお店、検索結果の上位に出やすい情報、何度もネット上で紹介されている場所。そうした情報はAIにも届きやすいでしょう。

 

一方で、

  • まだ知られていない小さなお店。
  • 長年地域で続いているけれどWebサイトを持っていない活動。
  • 地域の人だけが知っている歴史。
  • 少数の人が語り継いできた文化。
  • 日本語や地域独自の文脈の中にしか残っていない情報。

こうしたものは、AIが情報への入口になればなるほど、相対的に見えにくくなる可能性があります。今回の研究が直接「地域情報」を調査したわけではありません。しかし、英語と現地語の知識の反映に差があるという結果は、「ネット上に存在する情報ならAIが公平に拾ってくれる」と単純には考えられないことを示しています。

 

AI時代だからこそ「小さな情報」を残す

 

AIが便利になることと、地域メディアの役割は対立するものではないと思います。むしろAIが情報を整理してくれる時代だからこそ、その前段階にある「まだ誰も記録していない情報を見つけること」の重要性は高まるのかもしれません。

 

  • 実際に街を歩く。
  • お店の人に話を聞く。
  • 地域の人の声を残す。
  • 小さな出来事を記事にする。

そうしてネット上に記録された情報は、人が検索して見つけられるだけでなく、将来的にはAIが地域を理解するための情報源にもなり得ます。「小さな声を拾う」ということは、目の前の誰かに情報を届けるだけではなく、その地域に存在する知識そのものを残すことでもあります。

 

今回の研究から分かったのは、「知識崩壊がすでに起きている」ということではありません。一方で、約170万件の回答・約7000万件の主張を調べても、研究対象となったLLMはWeb検索より提示する知識の幅が狭かった。そして、現地語より英語で記録された知識が反映されやすいケースも確認されました。

 

AIが何を答えるのかだけではなく、「何が答えから抜け落ちているのか」。これも、AIと暮らす私たちが考えていく必要のある「?」ではないでしょうか。

 

主な確認資料


・Dustin Wrightほか
「What and Whose Knowledge? Measuring Epistemic Diversity in Large Language Models」
EMNLP 2026採択論文/arXiv v7(2026年8月31日)
https://arxiv.org/abs/2510.04226

・University of Copenhagen, Faculty of Science
「AI chatbots give us a narrow slice of knowledge: Researchers warn of ‘knowledge collapse’」
2026年9月26日
https://science.ku.dk/english/press/news/2026/ai-chatbots-give-us-a-narrow-slice-of-knowledge-researchers-warn-of-knowledge-collapse

※取材時点の情報です。掲載している情報が変更になっている場合がありますので、詳しくは電話等で事前にご確認ください。

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