暮らしと仕事の「?」を調べてみた
(更新)
科学的に「危険」と証明される?

図:公開資料をもとに編集部作成(生成AIを使用)
スマートフォンやSNSが子どもに与える影響について、
と考えたことのある保護者は少なくないでしょう。
では、もう一歩踏み込んで考えてみます。科学的に「SNSが子どもの心の不調を引き起こす」と完全には証明されていない段階でも、社会は利用を制限してよいのでしょうか。
この難しい問題が、現在オーストラリアの最高裁で実際に争われています。
オーストラリアでは2025年12月10日から、対象となるSNS事業者に対し、16歳未満の利用者がアカウントを作成・保有することを防ぐための「合理的な措置」を取ることが義務付けられています。対象にはFacebook、Instagram、TikTok、YouTube、X、Reddit、Snapchat、Threads、Twitch、Kickなどが含まれています。
ログインしなくても閲覧できる公開コンテンツについては、16歳未満でも見ることができます。また、メッセージング、教育、ゲームなどを主な目的とする一部のサービスは対象外です。
オーストラリアのオンライン安全規制当局「eSafety Commissioner」は2026年9月30日、制度に関するFAQを更新しました。対象事業者が16歳未満によるアカウント保有を防ぐための合理的措置を取らなかった場合、裁判所から科される民事制裁金は、企業の場合、現在最大1億920万豪ドル(1豪ドル = 約109.5円で換算すると約119億6,000万円)に達する可能性があります。
罰則を受ける可能性があるのは子どもや保護者ではなく、義務を負っているプラットフォーム側です。
この制度をめぐり、Redditがオーストラリア政府などを相手に最高裁で争っています。オーストラリア最高裁の事件記録では、
Reddit, Inc. v Commonwealth of Australia & Anor
Case No. S166/2025
(レディット社 対 オーストラリア連邦およびその他の被告 事件番号:S166/2025)
として審理されています。
大きな争点の一つは、16歳未満のアカウント保有を制限する制度が、オーストラリア憲法上の政治的コミュニケーションの黙示的自由(implied freedom of political communication)に許されない負担を与えているかどうかです。
そして2026年9月25日、オーストラリア政府側の書面が最高裁へ提出されました。
政府側の提出書面を読むと、非常に重要な一節があります。SNS利用とメンタルヘルス上の結果との因果関係や、その影響の大きさ・発生可能性には科学的な不確実性があることを認めています。
政府側は、SNSのアカウント利用に関連する機能について、子どもへの複数の「信頼できるリスク(credible risks)」が存在すると主張しています。
政府提出書面では、SNSの特徴として、無限に続くフィード、自動再生、利用者に合わせたレコメンド、通知、「いいね」など人気を示す機能、期間限定コンテンツなどが挙げられています。
そして、こうした機能との関係で、依存的・問題のある利用、睡眠への影響、不安や抑うつ、自殺念慮、注意力への影響、摂食障害の症状悪化などについて「信頼できるリスク」があると政府側は主張しています。
ただし、ここでも重要なのは、「リスクがあること」と「因果関係が科学的に確定していること」は同じではないという点です。
では、因果関係に不確実性が残っているのに、なぜ規制するのでしょうか。ここが今回の裁判の非常に興味深いところです。政府側は提出書面で、科学的不確実性がある一方で、信頼できるリスクと、そのリスクにつながると考えられる因果経路が存在すると主張しています。
そのうえで、科学的なコンセンサスによって制度の有効性が確立される前に、議会が「予防的な保護措置」を導入したことは正当化される、としています。
「深刻な被害につながる可能性について十分な根拠があるなら、科学的な不確実性が残っていても先に保護措置を取る」というものです。ただし最高裁がこの考え方を最終的にどのように評価するかは、まだ決まっていません。
ここで、先日この連載で取り上げた子どものスクリーン時間に関する研究ともつながります。約281万人を含む研究をまとめたアンブレラレビューでは、スクリーン利用と、学業やメンタルヘルスなど複数の指標との関連が報告されました。
しかし、
「スクリーン時間が長かったから問題が起きた?」
「別の要因が両方に影響している?」
あるいは、
「もともと心の不調を抱えている子どもがスクリーンを長く利用するようになる?」
観察研究だけでは区別することが難しい場合があります。
ここからが、私たちの暮らしにもつながる今回の「?」です。科学には、すぐに答えを出せない問題がたくさんあります。一方、家庭や学校、社会制度では、
科学的な結論が出るまで何年も判断を保留することが難しい場合もあります。オーストラリアの制度は、まさにこの問題に対して一つの判断をした事例です。
「リスクがあるなら、とにかく禁止すればよい」
という話でもありません。制限によって本当に被害が減るのか。子どもが別のサービスへ移るだけではないのか。SNSを通じた友人との交流や情報へのアクセスなど、子どもにとっての利益をどう考えるのか。
年齢確認のために新たな個人情報を扱うことによる問題はないのか。そして、子どものコミュニケーションの自由とのバランスをどう取るのか。こうした点も同時に考える必要があります。
今回の最高裁訴訟では、制度による政治的コミュニケーションへの影響そのものが争点になっています。
実際、まいぷれの記事を読んだ方から寄せられたメッセージにも、子どものスマホやSNSとの付き合い方に悩む声がありました。
といった迷いへの判断を日常的に迫られます。学校や教育行政にとっても、スマートフォンやSNSとの付き合い方は避けて通れないテーマです。
「子どものSNS利用は、本当に心の不調を引き起こすのか?」
現時点で、すべてについて科学的な因果関係が確定したとは言えません。
科学的にまだ「分からない」部分が残る時に、私たちはどう判断するのか。今回の裁判は、子どもとSNSの問題だけでなく、科学と社会の関係そのものを考える材料になりそうです。
今後、オーストラリア最高裁がどのような判断を示すのかも引き続き追っていきます。
High Court of Australia(オーストラリア最高裁)
「Reddit, Inc. v Commonwealth of Australia & Anor – Case No. S166/2025」
https://www.hcourt.gov.au/cases-and-judgments/cases/current/case-no-s1662025
High Court of Australia(2026年9月25日)
「Written submissions (Defendants)」
https://www.hcourt.gov.au/sites/default/files/2026-09/Reddit-Cth_Def.pdf
Australian Government – eSafety Commissioner(2026年9月30日更新)
「Social media 'ban' or delay FAQ」
https://www.esafety.gov.au/about-us/industry-regulation/social-media-age-restrictions/faqs
Australian Government – eSafety Commissioner
「Which social media platforms are age-restricted?」
https://www.esafety.gov.au/about-us/industry-regulation/social-media-age-restrictions/which-platforms-are-age-restricted
Federal Register of Legislation – Australian Government
「Online Safety Act 2021 – Part 4A Social media minimum age」
https://www.legislation.gov.au/C2021A00076/latest
The Guardian(2026年9月30日)
「Australian government concedes no scientific consensus on social media harms for teenagers – but 'credible risks' justify ban」
https://www.theguardian.com/australia-news/2026/sep/30/social-media-ban-australia-high-court-mental-health-risks-teens
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